デス・オーバチュア
第139話「聖雷覇皇(せいらいはおう)」





「エナジーバリアか……ちっ、面倒臭え……」
アーク・ディバウアの巻き起こした大爆発が晴れると、限りなく透明な球体に包まれたランチェスタが姿を見せる。
「……耐えきるのにかなりのエナジーが持っていかれたわ……いいえ、それよりもエナジーバリアで遮断しきれないってどういう原理の力よ、それ!?」
エナジーバリアの中のランチェスタは修道服がボロボロになっており、焦げたように薄汚れていた。
「なあに、たかが電気……作り物の雷さ」
「電気って……いったいどれだけの電流、電圧よ……この非常識な威力は……」
ランチェスタはエナジーバリアを解除する。
「今度は最大威力で放ってエナジーバリアごと消し飛ばせるか試すってのも手だが……」
「えっ? 今、何て……?」
ダルク・ハーケンの今の呟きは聞き逃せるものではなかった。
全エナジーの三分の一近くを持っていかれて、それでも完全に威力を打ち消せなかったのである。
アレが手加減した一撃で、さらに上の威力が出せるなど冗談ではなかった。
「……まあ、ここは、てめえも好きそうな『格闘戦』でもするか?」
ダルク・ハーケンの両腕の甲に埋め込まれた黒い宝石が青く輝き出す。
「宝石? そういえばさっきも……」
ランチェスタは、よく見るとダルク・ハーケンの装甲服のあちらこちらに、黒い宝石が埋め込まれていることに気づいた。
両腕の甲、小手、肩、両足の足首、太股、両胸、丹田……計十三の黒き宝石。
それらが青い電光を宿らせることで、青く光り輝く宝石へと転じるのだ。
「ああ、これか? 雷魔装は身を守るための鎧じゃねえ。アンプリファイア……オレ様の力(電気)を高めるアンプ(増幅器)の集合体だ」
「なるほどね……道理で急に強くなったわけね……」
移動スピードも、放出する電気も、雷魔装を纏う前と纏った後ではまるで別人である。
「卑怯とか言い出すなよ、笑っちまうからな」
「言うわけないでしょう、どんなインチキ装備でもドーピング(薬物投与)でも好きなだけ使えばいいわ。これはスポーツ(お遊び)じゃないんだから……はああああああっ!」
天からの落雷がランチェスタに直撃した。
「じゃあ、行くわよ!」
「へっ、まだ諦めがつかねえのかよ?」
「途中で戦いを諦めたことなんて、生まれてからただの一度もないわよ!」
ランチェスタは疾風迅雷の勢いで駆け抜ける。
「集束雷撃(クラスターサンダーボルト)!」
ランチェスタの右拳が今までの百雷撃とは桁違いの爆雷を放った。
「けっ!」
ダルク・ハーケンの左手の小手の宝石が青く輝いたかと思うと、青い電光で『シールド(盾)』のようなものが形成される。
黄色の雷光の拳と青の電光の盾が正面から激突し、大爆発した。
「……なるほどな、百発分の威力を一発だけに込めたわけだ……たいした威力だよ。一点集中のシールドじゃなくて、全身を覆うバリアだったら打ち破れたかもな?」
「くっ……」
二色の電光の爆発が晴れると、ランチェスタにとって絶望的な結果が晒される。
ランチェスタの右拳は、ダルク・ハーケンの右手の電光の盾で完璧に受け止められていた。
「さて、今度は耐えきれるかな?」
ダルク・ハーケンが右手を握りしめると、拳から四本の極太の針が飛び出す。
「う!?」
ランチェスタの腹部に電光を纏った針の拳が叩き込まれた。
「逝きな!」
ダルク・ハーケンはボディブロー(腹部打ち)の勢いのままに、ランチェスタを持ち上げる。
「ヒャハハハハハハハハハハハハハハハッ!」
天へと突き上げられたダルク・ハーケンの右拳を軸に、ランチェスタが独楽のように高速回転しだした。
ダルク・ハーケンの右の小手の宝石から次々に電撃が弾丸のように、回転するランチェスタに撃ち込まれ続ける。
「リグレットプレジャー!」
電撃の弾丸の連射が一瞬止まったかと思った瞬間、巨大な電光の杭がランチェスタの体を貫いていた。



「これが、エレクトリックバンカーの完成形……絶望(リグレット)の快楽(プレジャー)……ちゃんと天国に絶頂(イケ)たかよ、クソ幼女? ヒャハハハハハッ!」
ダルク・ハーケンがランチェスタを塵のように投げ捨てると同時に、電光の杭は拳から消滅する。
「さて、次は……」
ダルク・ハーケンは視線を、壁際で聖書越しにこちらを見ている修道女に移した。
「てめえの番……」
「うふふっ、気が早いわよ。油断大敵〜」
「あっ?」
「雷光衝撃杭(ライトニングインパクト)!!!」
雷光でできた巨大な杭が背後からダルク・ハーケンを貫く。
「わたしのお株を奪ってんじゃないわよ!」
「……そいつは悪かったな。別にパクッたわけじぇねえ、偶然お互いバンカーを武器として好んだってだけのことさ」
貫かれたはずのダルク・ハーケンの姿が消滅すると同時に、ランチェスタの背後にダルク・ハーケンが出現した。
ダルク・ハーケンの両手から青い雷光でできた両刃が突き出る。
「たく、往生際の悪い女だ……いい加減、素直に逝けよな、この不感症幼女!」
ダルク・ハーケンが電光の刃を振り下ろす直前で、ランチェスタは前方に飛び出すように逃れた。
「つっ……!」
ランチェスタの背中が赤く染まり出す。
かわしたはずの電光の刃は、浅くだがランチェスタの背中を切り裂いていたのだ。
「ちっ、本当にしぶとい……後、何分だ? 仕方ない、一気に決めるか?」
「…………?」
ランチェスタは違和感を覚える。
自分を圧倒しているように思えるダルク・ハーケンの方が、なぜ余裕がない……ように見えるのだ?
「……とはいえ、今のままじゃパワーもスピードもまるで勝負にならない……てのはいい加減認めるしかないわね」
「あん? いまさら何言っていやがる?」
「……できれば、闇の姫君(ダーク・ハイネス)以外にこれは使いたくなかったんだけど……そうも言っていられないか……」
ランチェスタはポケットから、小さな……というか、普通サイズのロザリオを取り出す。
「ああん? 今更、神様にお祈りか? 魔族のくせに……ていうか、お祈りならそっちの馬鹿でけえ十字架の方が御利益あるんじゃねえのか?」
ダルク・ハーケンは、ランチェスタの右手に張り付くように装備されている嘆きの十字架に視線を送りながら言った。
「そうね……じゃあ、こっちはちょっとあなたが預かっていて……ねっ!」
「あっ!?」
ランチェスタは突然、嘆きの十字架をダルク・ハーケンに向けて投げつける。
雷すら余裕でかわせるダルク・ハーケンである、当然、余裕で十字架をバックステップで回避した。
嘆きの十字架はダルク・ハーケンの目前の床に彼の視界を遮るように、突き刺さる。
「妄執(もうしゅう)のロザリオ……怨讐(おんしゅう)のロザリオと対を成す……魔導王『煌(ファン)』の失われた遺産(ロストレガシー)……」
「けっ! そんなちっちぇえ十字架がなんだってんだよ?」
「なら、今見せてあげるわ……フォルツァート!」
ランチェスタが右手で十字を切ると、聖なる光が彼女の姿を包み込んだ。
「アマービレ(愛らしく)、ブリランテ(華やかに)、エレガンテ(優雅に)、リベラメンテ(自由に)!」
「ぐっ……」
目も眩むような聖光の中から流暢なランチェスタの呪文が聞こえてくる。
「デリツィオーソ(甘美的に)! フリーセントフォルス!」
「があああああああああっ!?」
聖光の爆発、光の乱舞がダルク・ハーケンを吹き飛ばした。
聖光はゆっくりと収まっていき、人影を浮かび上がらせていく。
「聖霊降臨(せいれいこうりん)! 聖奏至甲(せいそうしこう)! 聖雷覇皇(せいらいはおう)ランチェスタ!!!」
聖光が完全に収まると、そこには美しく輝く白銀の甲冑を纏った少女が姿を見せていた。



「……てめえ……本当に魔族か? なんて気味悪い力を放ってやがる……」
ランチェスタは、手甲、肩当て、胸甲、具足の七つだけの体の動きを損なわない最低限の甲冑を装備していた。
「この聖装至甲は、封印、拘束を主目的とした嘆きの十字架とは違う……究極の対魔属用の装備、魔を断つ鎧……並の魔族だったら、装着した瞬間に肉体も魂も完全に滅却されるでしょうね」
「確かに近寄りたくもねえ不愉快な破魔……いや、滅魔の波動を放ってやがる……だが、それが何だっていうんだよ!」
ダルク・ハーケンの両掌にそれぞれ、青い雷球が生み出される。
「魔族のてめえが、そんな物騒な鎧を着けたって、強くなるわけでも、速くなるわけでもねえだろうがっ! ダブル・シャウト!」
ダルク・ハーケンは二つのメガ・シャウトを同時にランチェスタに投げつけた。
ランチェスタは避けようともせず、二つの雷球が直撃し、大爆発を起こす。
「けっ! 鎧が重すぎて動けなかったのか? それとも、鎧の放つ滅魔の力でまいちまったのかよ?」
ダルク・ハーケンは嘲笑うように言った。
「……そのどちらでもないわ」
「あっ!?」
爆発が晴れると、無傷で何事もなかったように佇んでいるランチェスタが姿を見せる。
「その程度の雷球、かわすまでもない……それだけよ」
「ちっ! なら、これならどうだ! ギガ・シャウト!!」
ダルク・ハーケンは左手で右手首を掴むと、右掌の上に、今までのメガ・シャウトの倍近いサイズと輝きを持つ雷球を生み出した。
「懲りないわね……」
「弾け飛びやがれ!」
ダルク・ハーケンはギガ・シャウトをランチェスタに投げつける。
「……せいっ!」
ランチェスタは右拳で、飛来したギガ・シャウトを殴りつけた。
そして、発生した大爆発の中からランチェスタが飛び出してくる。
「クレフティヒ(力強く)!」
「があっ!?」
ランチェスタの右拳がダルク・ハーケンの腹部に深々とめり込んだ。
拳のめり込む腹部から蒸気のような煙が吹き出し始める。
「つっ……離れやがれっ!」
ダルク・ハーケンが右手の電光の刃を振り下ろすが、それより一瞬速く、ランチェスタは後退していた。
「フリオーソ(荒れ狂って)!」
ランチェスタは再び一瞬で間合いを詰めると、両拳の乱打をダルク・ハーケンの全身に叩き込む。
「がああああああああぁぁぁぁ……!」
「ルナティーコ(狂気のように)!」
ランチェスタはダルク・ハーケンを派手に殴り飛ばすと、先回りして、飛来してきたダルク・ハーケンを殴り飛ばし返した。
さらに、先回りして、ダルク・ハーケンを殴り飛ばし返す……それを何度も何度も繰り返す。
ランチェスタは、一人でダルク・ハーケンのキャッチボール(殴り飛ばし合い)を行っていた。
「て……てめえ、いい加減にしやがれっ!」
ダルク・ハーケンは掌から爆発的に電撃を放出して、吹き飛ばされ続ける自らの軌道を変え、ランチェスタのキャッチボールから脱出した。
「ちっ、その手甲で触られただけで、体が焼け爛れやがる……雷魔装も防具としてはまったく役に立っちゃいねえ……」
ダルク・ハーケンの体中から、蒸発するような煙が立ち上っている。
「……それ以前に、何で、てめえ、パワーやスピードが上がってやがるんだよ!?」
「さあね? あの世でゆっくり考えなさい……もっとも、ここで存在を完全に滅されるあなたに、あの世なんてないのかもしれないけど……」
「ほざきやがれっ!」
ダルク・ハーケンの両手の小手から青い雷撃がマシンガン(機関銃)のように次々に撃ちだされた。
「脆弱! 脆弱! 脆弱すぎる!」
ランチェスタは電撃に構わず、ダルク・ハーケンに突進していく。
電撃は全て、ランチェスタの身に纏う甲冑によって弾かれていた。
「ちっ! アピ……」
「遅い!」
ダルク・ハーケンが何かするよりも速く、ランチェスタは彼の懐に潜り込む。
「聖雷(せいらい)の彼方に滅するがいい! 電光爆砕(ライトニングエクスプロージョン)!」
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァッ!」
ランチェスタの両拳の一撃で天高く放り上げられたダルク・ハーケンは、空を埋め尽くすような雷の閃光と共に、跡形もなく爆砕した。





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一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。



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